エキスパートシステムには深刻な弱点がありました。第一に、専門家の知識
を聞き出してルール化する作業が非常に大変でした。専門家は自分の判断を
第2次AIの冬|1980年代後半
1987
必ずしも明文化できず、暗黙知をルールに変換するのは困難でした。第二
に、ルールが増えると保守が難しくなりました。一つのルール変更が別のル
ールと矛盾することもあります。第三に、想定外の入力に弱いことも問題で
エキスパートシステ
ムの限界
した。1987年頃には高価なLISPマシン市場も崩壊し、AIは再び冬の時代を迎
えます。
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しかしその陰で、一度は見捨てられたはずの技術が、誰にも気づかれないま
ま静かに息を吹き返していました。
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1980年代の主役はエキスパートシステムでしたが、その陰でニューラルネッ
トワークも復活し始めていました。1982年、ジョン・ホップフィールドはホ
静かな復活|1980年代
1986
ップフィールドネットワークを提案し、連想記憶のモデルとして注目されま
した。1986年には、ルーメルハート、ヒントン、ウィリアムズらが誤差逆伝
播法を広く知らしめ、多層ニューラルネットワークの学習が現実的になりま
ニューラルネットワ
ークの静かな復活
す。この流れは当時すぐに主流にはなりませんでしたが、後のディープラーニ
ング革命につながる重要な基礎になりました。
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それでもAIの評判は地に落ちたままでした。1990年代、研究者たちはある
「大胆な決断」をします。
AIの歴史
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1990年代は、AI史の中では地味に見える時期です。第2次AIブームが終わり、
「AI」という言葉には過大広告の印象がありました。研究者や企業は、あえ
統計の時代|1990年代
1990s
てAIという言葉を避け、「機械学習」「データマイニング」「知識発見」「パタ
ーン認識」といった表現を使うようになります。しかし、この時代こそ現代
AIの土台が静かに作られました。AI研究は、人間が手作業でルールを書く方
1990年代、AIとい
う看板を降ろしたAI
法から、データに基づいて規則性を学ぶ方法へと重心を移していきます。
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看板を降ろした裏側で、AIは私たちの生活の「見えない場所」に入り込んでい
きます。どんな技術が、どこで使われたのでしょうか。
AIの歴史
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1990年代には、統計的機械学習が発展しました。決定木、サポートベクター
マシン、ベイズネットワーク、隠れマルコフモデル、アンサンブル学習などが
統計の時代|1990年代
統計
実用化されます。音声認識では隠れマルコフモデルが成果を上げ、文字認識
ではニューラルネットワークも活用されました。特徴量を設計し、データか
ら分類や予測を行うスタイルが広がります。銀行の与信審査、迷惑メールフ
統計的機械学習と実
用化の広がり
ィルタ、異常検知、検索、推薦など、AI的な技術は日常システムの裏側に組
み込まれていきました。
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そして1997年。チェスの世界王者が機械に敗れた同じ頃、もう一つの大きな
波が世界を覆い始めます。
AIの歴史
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1997年、IBMのDeep Blueがチェス世界王者ガルリ・カスパロフを破りまし
た。チェスは長くAI研究の象徴的課題であり、計算機が特定の知的課題で人
統計の時代|1997年
1997
間の頂点を超えた出来事として大きな意味を持ちました。同じ頃、インター
ネットが急速に普及します。Webページ、検索ログ、購買履歴、メール、掲
示板、デジタル文書が爆発的に増えました。この膨大なデータは、後のAIに
Deep Blueとインタ
ーネットの時代
とって決定的な資源になります。AIは「手で知識を入力するもの」から「デー
タから学ぶもの」へ変わり始めました。
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データは溢れ、あとは計算力さえあれば。2000年代、そのもう一つのピース
がそろい、AIを蘇らせます。
AIの歴史
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2000年代に入ると、AIを取り巻く環境は劇的に変化します。インターネッ
ト、ECサイト、SNS、ブログ、動画共有サイト、スマートフォン、センサー
データと計算資源|2000年代
2000s
機器が膨大なデジタルデータを生み出しました。同時に、計算資源も飛躍的
に向上します。特にGPUは、ニューラルネットワークの行列計算に適してお
り、大規模な学習を現実的にしました。以前は理論的には可能でも計算量の
面で難しかった深いニューラルネットワークが、データと計算資源の後押し
2000年代、ビッグ
データとGPUがAIを
蘇らせる
で再び注目されるようになります。
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データと計算力という「燃料」はそろいました。あとは点火するだけ。革命
の準備として、二つの重要な出来事が起こります。
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2006年、ジェフリー・ヒントンらはディープビリーフネットを発表し、多層
ニューラルネットワークへの関心を再び高めました。この頃から「ディープ
データと計算資源|2006〜2009年
2009
ラーニング」という言葉が広がり始めます。2009年には、フェイフェイ・リ
ーらによってImageNetが構築されました。大量の画像にラベルを付けた巨大
データセットであり、AI研究者が同じ条件で画像認識性能を競う共通の舞台
ディープラーニング
復活の準備
を作りました。ImageNetは、後にディープラーニング革命の引き金となる重
要な基盤になります。
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舞台が整う一方で、AIは別の場所でも存在感を示していました。自動運転、そ
してクイズ番組での人間との対決です。
AIの歴史
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2000年代には、自動運転の研究も大きく進みました。DARPAグランドチャレ
ンジでは、スタンフォード大学の自動運転車が砂漠コースを完全自律走行
データと計算資源|応用の可能性
2011
し、後には市街地を想定した走行にも成功しました。自動運転は、認識、計
画、制御、機械学習を統合する総合AI技術です。2011年には、IBMのWatson
がクイズ番組Jeopardy!で人間チャンピオンに勝利しました。Watsonは自然
自動運転とWatson
が示した応用可能性
言語の質問を解析し、大量の文書から候補回答を探し、確信度を計算するシ
ステムでした。
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そして2012年。ある画像認識コンテストの結果が、研究者も産業界も震撼さ
せ、AIの歴史を二つに分けます。
AIの歴史
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2012年、ImageNet画像認識コンテストで、トロント大学のチームが開発した
AlexNetが圧倒的な性能で優勝しました。AlexNetは畳み込みニューラルネッ
ディープラーニング革命|2012年
2012
トワークを用い、GPUによる高速学習、ReLU、ドロップアウトなどの技術を
組み合わせていました。従来手法を大きく上回る性能向上は、研究者だけで
なく産業界にも衝撃を与えました。この出来事をきっかけに、ディープラー
2012年、AlexNetが
起こした革命
ニングは実用技術として一気に認められ、画像、音声、自然言語処理で従来
手法を置き換えていきます。
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一度火がつくと止まりません。2010年代、ディープラーニングはどこまで私
たちの生活に入り込んだのでしょうか。
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2010年代、ディープラーニングは多くの分野で成果を上げました。画像認識
では、物体検出、顔認識、医用画像解析、写真整理などに応用されました。
ディープラーニング革命|2010年代
2010s
音声認識では、スマートフォンやスマートスピーカーの音声アシスタントが
実用的になります。自然言語処理では、ニューラル機械翻訳が普及し、翻訳
品質が大きく向上しました。AIは研究室のデモから社会インフラへ移行し、
ディープラーニング
の応用拡大
検索、広告、SNS、物流、金融、医療画像診断など、人々が意識しない場所
で働くようになりました。
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認識するAIの次に現れたのは、「作る」AIでした。それは同時に、新しい社会
問題の始まりでもありました。
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